2018年12月24日月曜日

『CASABELLA JAPAN』890号「終わらない建築」

二年間にわたる『CASABELLA JAPAN』の連載も、今回の寄稿でひとまずの区切りになります。毎回のテーマは時系列に展開させてきたので、最終回は20世紀末から現代までにフォーカスをし、サステナビリティを巡る建築の問題を取り上げています。建築が工業生産を基本とするような時代になっても、新品の性能だけが建築のすべてではありません。少なくとも、自分の立場は、竣工後の建築が備える存在論的価値、そこに熟成される文化的価値にいかに意味を見出すことができるかにあります。したがって、サステナビリティというフラッグはまたとない追い風で、建築に対するものの見方を見直すことにもつながります。二年間の連載のなかで、私もさまざまに考えを巡らすことができました。とても楽しかったです。編集の小巻さんにはあらためて感謝したいと思います。

2018年10月20日土曜日

カザフスタン、アルマトイ、ソ連時代の建築を見る

アルマトイ現代文化センターのスタッフの方にソビエト政権時代の建築を案内していただきました。まずは「ツェリニー現代文化センター」、これは昨日講演をさせていただいた重要建築。創建時の部分、ソ連崩壊後に改変された部分をレイヤーとして見せながら、現在の機能を果たせるように改修されています。「ガスツィーニッツァ・ホテル」、これは宿泊させていただいたところで、オリジナルのモダニズム・テイストがややアール・デコ・テイストに改変。近くの「旧レーニン・パレス]、正面の大きな軒が東京文化会館を思わせる。しかし改変により、かなりポスト・モダン・テイストに。ドスティク大通りに面する集合住宅はバルコニーのディテールが香川県庁舎を思わせる。三棟をつなぐ接続部は、メタボリズムの思想を反映するかのように将来の増築の余地を想定していてなかなか面白かった。山間部の「スケートリンク」、いまでも古さを感じない。さらに山中の「ダム」、Y字のアイコン、こちらは写真のほうがインパクトがあります。ソビエトのパワーがコンクリート造形として遺憾なく発揮されたといったところでしょうか。もう少し行くとキルギス国境だけに、かなり寒かったです。本当に素晴らしいエクスカーションになりました。

2018年10月19日金曜日

カザフスタン、アルマトイにて講演

カザフスタンの旧都アルマトイへ出張。アルマトイの現代文化センターの招待で「Japanese Architecture 1960–1990. Modernism in Bloom and its Cultural Heritage Value」と題する講演を行いました。当日のプログラムはhttp://www.tselinny.org/en/article/22を参照。この文化センターは、ソビエト時代の劇場を再生したもので、この9月にオープニングしたばかり。センターを含むアルマトイ中心市街の建築の7割ほどがソビエト時代に建てられたものらしく、それらを取り扱った展覧会も開催されていました。こうしたモダニズム遺産の継承にフォーカスを当てる企画のなかで、呼んでいただいたというわけ。1960、70年代の建築家たちは雑誌を通じて、日本建築にも感化されたというからこちらもテンションが上ります。高度成長期の日本の建築、こんなところでもイケてたんですね。。。いやー、感動でした。

2018年9月30日日曜日

『CASABELLA JAPAN』887/8号「社会に資する建築」

今回の論考は「社会に資する建築」と題するものです。内容はモダニズムと社会主義的理想のオーヴァーラップについてです。前稿では美について論じましたが、建築の立脚点に注目すれば、20世紀建築においては美の揺らぎと相前後するように社会的使命が力強く自覚されるようになったと言えます。建築の理想は、より良き社会の実現をめざす気高い志によって支えられました。だから、建築家はときに社会改革者にもなりえたのです。社会主義革命の結末がすでに確認されている現在の地平からすると、理想と現実のギャップから目をそらすことはできませんし、聞こえの良い理想を語ることがますますはばかられるようになってもいます。それでも、建築に使命を感じ、何かをなそうとしてきたこれまでの道のりへはしっかりと目を向けねばなりません。

2018年8月1日水曜日

『CASABELLA JAPAN』885号「建築の美はどこに」

今回の論考は「建築の美はどこへ」と題するものです。ルネサンス以降、建築家のステイタスを支えてきた美の取り扱い、これが古典主義的伝統崩壊の後どうなっていくのかという問題について考察しています。当然、現代あるいは近代社会における装飾のあり方がポイントになります。よく、20世紀建築は装飾を否定した、というような説明の仕方がありますが、たしかにそうした主張を持つ建築家がいたことは事実です。ただ、けっして社会の多数派すなわち大衆が装飾に無関心だったわけではありません。むしろ社会に装飾は浸透しきったのであり、必要あらばいつでも呼び出される状態になったと言うこともできます。同時に、美のあり方も装飾の有無に関係なくますます多様化しました、そんなことを書き綴っています。

2018年6月4日月曜日

『CASABELLA JAPAN』883号

今回の寄稿テーマは、建築が自然をどのように利用してきたか、場合によっては、建築化される自然、についてです。建築に用いられる技術が高度化されるにしたがって、自然の取り込み方もずいぶん変わってきました。現代建築では建築があたかも自然をまとうような表現も出てきています。このようにハイテクが深化することと、プリミティブな自然への回帰、この相反する要求がますます絡み合ってきているのが建築の現状には読み取れます。もともと自然との一体性の強い日本建築の伝統も、こうした文脈の中で再評価されるのかもしれません。

2018年5月27日日曜日

ヴェネツィア・ビエンナーレ

バチカンがヴェネツィア・ビエンナーレに初参加するとのこと。カザベラ編集部よりせっかくオープニング・レセプションの招待状を送っていただいたので、がんばって行ってみることに。18時からとは言え、気温30度にとどくかというくらい強い日差し。おまけにサン・ジョルジョ島へアクセスする水上バスは招待客で大混雑でした。島へ上陸後、会場である庭園の奥へ少しずつ誘導される。そろそろ、アペリティーボでも振る舞われるのかなと期待していたが、特にその気配なく。牛歩を繰り返し、ようやくお目当てのチャペル群が見える。本企画はダル・コーのプロデュース。アスプルンドのチャペルを除けば、フォスター卿、藤森照信さんなど10名の作家が作品を手がける。フォスターが手がける木造、なかなかレアでした。藤森さんにご挨拶をしつつ、すべてのチャペルを巡回。ラグーナにいながら、人の波をかき分けるのに苦労しました。でも、行ってよかった。ちなみに、帰りの水上バスも大混雑だったことは言うまでもありません。翌日は、本会場も回ってきました。フリースペースというテーマだけに、コンテンツ盛りだくさん。こちらもおもしろかったです。

2018年4月5日木曜日

オーム社「建築について考える」のYA-HOUSEレビュー

オーム社ウェブ企画「建築について考える」に、窪田勝文さんのYA-HOUSEのレビューを書かせていただきました。窪田さんの建築は海外の建築雑誌でも取り上げられるフォトジェニックな作品ばかりですが、実際に住宅内部にまでお邪魔して取材をさせていただくのは今回がはじめてでした。タイトなスケジュールのなか、設計者の窪田さんにもじっくり話をうかがうことができ、実に貴重な機会となりました。YA-HOUSEにとどまらず、昨今の建築事情にも話は及びました。現場で挑戦を続ける建築家の話は大変参考になります。結果、午後いっぱいサロンに長居させていただきました。お施主様には大変ご面倒をおかけしました。この場を借りて御礼申し上げます。レビューは次のリンクから御覧ください。http://architecturalpride.com/column/%E3%80%8Cya-house%E3%80%8D

2018年3月16日金曜日

『CASABELLA JAPAN』881号に寄稿しました

今回の論題は「時空の広がりと世界の掌握」です。すなわち、西洋列強による海外進出が国力増強の重要な要件になりつつあった時代です。物、人、情報が動きます。ときに強引に動かされます。そのおかげで経済が回ります。建築も当然、その勢いに乗っかりました。建築文化も新たな局面を迎えます。こうして、ヨーロッパにおけるエキゾチシズムは開花しました。シノワズリー、ジャポニズムと呼ばれる東アジア・ブームもその一部として捉えるべきでしょう。他者を捉えるまなざし、これが世界を把握する際にも重要な役割を帯びてきます。建築家の制作に、まざまざとそれを読み取ることができます。

2018年3月13日火曜日

『福祉転用による建築・地域のリノベーション』に寄稿しました。

学芸出版社から新刊書『福祉転用による建築・地域のリノベーション』が送られてきました。本書において、私は、第3章7節「福祉転用による歴史的建造物の継承」を執筆させていただきました。自分のこれまでの仕事からすると、実にフレッシュな挑戦になりました。同時に、歴史的建造物を保存活用するための現実的課題を知るまたとない機会にもなりました。この仕事は、大学の同僚の山田あすかさんに声をかけていただき、現地に赴き、一緒に調査をし、イベント、数度の会議を経て、書籍になりました。本当にありがたく思います。当時大学院生であった浅川巡さんにもさまざまな作業をしてもらいました。記して御礼申し上げます。

2018年1月19日金曜日

『CASABELLA JAPAN』879号に寄稿しました

今回のメインテーマは新古典主義あるいは合理主義です。そう言えば、この間パリで、「球体と建築」という展覧会があったので覗いてみました。内容は、古代に2,3の例を引いた後、やはり大きな流れを作るのは18世紀からという筋。カザベラ稿の内容とも一致するので一安心。ちなみに、21世紀の例は僕には理解不能でした。さて、稿にも登場するニュートンの偉業を記念するプロジェクトですが、ブレーにかぎらず、当時、実にさまざまなアイデアがあって、ロンドンの未完プロジェクトなんかとてもおもしろかったです。建築に再現される球体には天球と地球の両モデルが存在すること、大々的な再現は20世紀に至り、万博パヴィリオンとして実現されていくこと、などを理解しました。残念ながら図録が用意されていなかったので、本展覧会で得られた情報はパンフだけが頼りなんですが、通常の建築展とは一味違った視点がかなり新鮮で、カザベラ稿を脱稿した後の僕にとってはタイムリーでした。